明るい日の記憶 [日々の眺め]
コスモスが あちこちに咲いているのを 見かけるようになった。
どんな風景にも 秋を演出する花。
私には 明るいあの日の記憶があって とても懐かしい花だ。
秋の彼岸には いつも父母を車に乗せて 母の実家である
伯父の家に行った。庭のあちこちに咲き乱れるコスモス。
その間を縫うように車を走らせ 蔵の前に駐めるのが常だった。
-おぅ~
-やぁ~
父と伯父の挨拶はこんな調子で 気が付くと二人で向かい合って
煙草をふかしている。
とりとめのない話が とぎれとぎれに交わされ
-じゃぁ 出かけるか
と 伯父が腰を上げると 父も母の手を引いて立ち上がる。
伯母が 庭に咲く花を抱えきれないほど切り取って新聞紙に
くるんでくれた。墓地までは 急な坂道を登らなければならない。
母は その頃 かなり足が弱っていて この坂道を登るのに
かなりの時間がかかった。
父と伯父は ときどき振り返りながら 先をゆっくりと歩いて行く。
道の両側は 水引草やミゾハギ 野菊たちの 花の饗宴
-いつか 俺も ここに入るっていうことだ ハハハ!
-そういう時がねぇ・・・そう長くない先ですな お互いに ハハハ!
山の上の墓地は 無秩序に墓石が並び あちこちに線香の
煙が立ちのぼっていた。
明るい澄んだ陽。風に揺れるコスモス。
見上げると 父も伯父も 優しい光に包まれていた。
その日のことは 記憶に残った。
それから2年後 伯父が亡くなり
父も 82歳の人生を異郷で閉じ 骨になって この坂道を登った。
田舎に墓参りに行くたびに あの日と同じように
墓地に揺れるコスモスを見つめ
ハハハ! と笑う 伯父と父の声を確かめてくる。
うつくしい詩をありがとうございます。目に見えるようです。
若かったとき、詩にある土地をあるいたような気もします。
私も、兄弟3人、もうすぐそんな時がくるような気もします。
by みと (2006-09-14 23:52)
お早うございます。白壁の蔵はなつかしい風景ですね。但し私の家の蔵は「白壁」ではなかった。白壁にするのも結構経費がいる故。
お父さん82歳ですか。こちら74歳。母はずっと長生きしましたが。墓石のお墓も今では納骨堂です。
by 夏炉冬扇 (2006-09-15 07:11)
私も季節の花と、大好きだった人たちと結びつくことが多いです。
カンナや、ケイトウを見れば父を思い出しますし、桜の花を見れば母を思うという具合です。
美しい花は、心の中に忘れてはいけない昔を思い出させるために毎年姿を見せるのかとおもうようです。
タックンさんは、コスモスの花なんですね。
by mamire (2006-09-15 19:50)
涙腺が負けかけました。
誰も、いつかは他界するんだけど、在りし日の面影を、一緒に来た道などに来ると思い出してしまいますね。
by 山雨 乃兎 (2006-09-15 21:14)
いいお話ですね。
ところでしばらくご無沙汰しているあいだに、
キアゲハは大変なことになっていたのですね。
タックンさんもいろいろ努力されて大変でしたね。
by はてみ (2006-09-15 23:00)
タックンさんの文章は美しい散文となって心にしみこんでいきました。
もうすぐお彼岸ですね。
by レイン (2006-09-16 01:19)
お墓に続く坂道を、たくさんの花を抱えて、ゆっくりと上って行く姿に目に浮かぶようです。お庭に咲いている花を、お供えできるところが、良いですねぇ。いつかはお墓に入るというコトが、そろそろ実感できるような年になって来ました(まだ早いかな?)。しばらく墓参りをしていないので、今年は行こうかな、と思ってしまいました。
by sakamono (2006-09-16 08:27)
>みとさん おはようございます。
相変わらずお仕事がお忙しそうですね。連休はゆっくり休んでくだいね。
敬老の日ですね。お母様はお変わりありませんか?
>夏炉冬扇さん おはようございます。
白壁は美しいですね。伯父宅には他に土蔵もありましたが、崩れかけて
取り壊しました。ひんやりと薄暗く、不思議な空間でした。
>mamireさん おはようございます。
カンナやケイトウとのお父様との思い出はどんな思い出でしょうか。
年々、花や風景に自分の思い出ばかりを重ねてしまうような気がします。
まだ若い!新しい出会いを求めなければ^^
>モレイラ・マルケスさん おはようございます。
この日のことは、とても明るい記憶として残っています。
この墓地の前に立つと、凝縮された時間が、緩やかに解き放されて行くのを感じます。
はてみさん おはようございます。
そうなのです、キアゲハ。羽化しないまま黒くなってしまいました。
頭のところに小さな穴があったので、たぶん何かが寄生してしまったのでしょう。いじりまわしてしまって・・・ゴメンと謝りたい気持ちです。
レインさん おはようございます。
空気が澄んできましたね。今朝、彼岸花も見つけました。
明るい気持ちで、亡くなった人たちを思い出せるいい季節ですね。
sakamonoさん おはようございます。
田舎の庭にはどこでも、草花がいっぱい。墓地はそれらの花で埋められます。先に立っていてくれた人たちが居なくなって、はじめて自分の行き着くところが見えて来ました。sakamonoさんはまだまだ遠い先のことですよ^^
by タックン (2006-09-16 10:29)
はじめてご訪問させていただきます。
秋のコスモスの写真と文章を読ませていただいて静かな想いを持ちました。
わたしにもいろんな思い出の会話があります。
静かな秋ですね・・・
by (2006-09-16 11:17)
素敵な思い出と 素敵な話
懐かしさを感じます。
コスモスと・・・
花にその時々の想いがありますね。
by junsbar (2006-09-16 13:25)
アカシアさん こんにちわ。
ご訪問、そしてコメントをありがとうございます。
思い出の会話、ふっとしたときに浮かんできますよね。その時は聞き流していたものなのに・・・。
アカシアさんの文章もとても素敵です(お料理も)。
これからもどうぞよろしくお願いします。
by タックン (2006-09-16 15:23)
junsbarさん こんにちわ。
junsbarさんのコスモスの写真を見ていたら、懐かしい日のことが
思い出されました。ずいぶんと昔のことなのに、つい昨日のことの
ような・・・時間はたくさん流れているのですが・・・。
by タックン (2006-09-16 15:43)
タックンさん、こんばんは。
良いお話しですね。心に残るお話しです。
コスモスは子供の頃から好きなお花です。
by 絵瑠 (2006-09-16 22:37)
絵瑠さん
あちこちにコスモスの花が咲いています。
コスモスもいろいろと花色があるのですね。
昔は薄いピンク色が多かったような気がします。
by タックン (2006-09-17 19:21)
お彼岸が近づくと、彼岸にいってしまった人達のことが思われます。
春より秋・・・がなぜか思い出されます。
今頃、お墓の中で、楽しい会話をしているのでしょうね。兄弟が仲がいいっていいです。
黄金色ですね。稲穂が・・・。
by (2006-09-17 21:53)
こぎんさん こんばんわ!
そうですね~あちらの世界で楽しい会話を交わしているのでしょうね。
お墓参りに行くと、その声が聞こえてくるようで・・・あちら側も悪くは
ないなぁ・・・と思ったりしますが^^
今日の記事に書いたのですが、キアゲハの蛹は羽化させてあげられませんでした。とても残念です。いろいろアドバイスをありがとうございました。
by タックン (2006-09-17 22:09)
この世を生きるばかりが「生」ではない、と改めてじんわり思われました。
在りし日の風景の中に、後に残る方々の心の中に、確かに息づいている。。。
私自身、いつかこのように思われることはあるのか・・・などと、ふと考えさせられました。
by パキちゃん (2006-09-18 09:48)
パキちゃんさん
年齢のせいでしょうか、どうしても思い出すことがこんなことばかりです。
少しわかってきたことは・・・生の行き着く先を受け容れられるようになってきたのかなぁと・・・。ホントかな^^
by タックン (2006-09-18 17:53)
心にしみるお話ですね。
若者の速度、高齢者の速度、車の速度、自転車の速度、歩く速度。それぞれで見える風景や感じ方が変わってくるんだろうな、とおもいました。
この間新幹線に乗って、あまりのスピードに目が回りました(@@)
by (2006-09-20 20:19)
れいさん ありがとうございます。
その年齢になってはじめてわかることがあります。
想像と実感は、かなり違いましたが^^
若い日は若い日の、その時を生きればいいのだと思います。
by タックン (2006-09-20 21:06)
明るい日の記憶。
「俺には人には言えねえ明るい過去があるんでぇ」
いえ、何でもないです。いい子供時代は秘密の宝物です。
by 春分 (2006-09-20 22:45)
ユラユラとたよりなさげなコスモスの花は強風でも倒れずに生き残ると聞いた事があります
その時を一生懸命に生きようと思います
by TRUE-PICT yoshizawa naoki (2006-09-21 09:28)
楽しい春分さん
で? どんな明るい過去が^^
そんな話しも聞きたいです。
by タックン (2006-09-21 19:43)
よっしー凸凹さん
そう、コスモスは台風のあとだってしっかり立ち直っています。
そんな生き方を・・・と言うにはもうちょっと人生を生きなければ^^
モンちゃん、本当によかったですね。
by タックン (2006-09-21 19:50)